東京高等裁判所 昭和24年(新を)2096号 判決 1950年1月31日
被告人
山口和夫
主文
原判決を破棄する。
本件を東京地方裁判所に差し戻す。
理由
被告人の控訴趣意及び弁護人長友安夫・矢島吉平の控訴趣意第一点について。
記録を精査すると被告人が昭和二十四年三月五日、東京都足立区千住仲町七十三番地高橋德重方前において、同人所有の自轉車を他に持ち去つたことは原判決挙示の各証拠を綜合してこれを認め得るのであるが、原審第一回及び第三回の各公判調書の記載を綜合すれば被告人は原審公判廷において自分は前同日上野で飮酒した後、北千住で逮捕されたが、その間のことは判らない、と主張していることが認められるのであつて、右主張は只單に原判示自轉車窃取の犯行を否認しているのではなく、当時は右飮酒のため酩酊した結果意識不明に陷り、心神喪失又は心神耗弱の状態にあつた、との趣旨に解すべきものであるから、右は畢竟刑事訴訟法第三百三十五條第二項にいわゆる法律上犯罪の成立を妨げる理由又は罪の加重減免の理由となる事実の主張に該当するので、同項によつてこれにたいする判断を示さなければならないのであるが、原判決にはこの点に関する何等の判断も示されていないのみならず、原判決挙示の証拠中には却つて被告人が右事件当時少くとも心神耗弱の状態にあつたことを疑わしむるような内容を持つものすら見受けられるのであつて、要するに原判決には刑事訴訟法第三百七十八条第四号に所謂判決に理由を附せざるの違法があるから、到底破棄を免かれざるものである。
右の理由であるから、他の論旨に対する判断を省略し、同法第三百九十七條第四百条本文に則り主文のとおり判決する。